2016年12月23日金曜日

第3話 薬学雑誌、初?の構造活性相関の論文


薬学雑誌27516(1905)から
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003664171


コリン属の生理作用に対する側鎖の影響 Chem.Ztg.No.79, 941 (1904)(慶松)
薬学雑誌には「学事彙報」という最新外国雑誌の記事を紹介するコーナーがあった。今の「トピックス」欄のようなものだが、毎月10本から20本。各記事の分量は4行から20行でマチマチである.

明治日本は欧米文明の輸入に努めた。清国が植民地化される弱肉強食時代、国家存続のためにも必死であった。東大などは欧米文明の“配電盤”(司馬遼太郎)として設立され、技術者、教育者の養成とともに、西洋技術を「翻訳、噛み砕いて」全国津々浦々まで分配、普及させるという使命が大きかった。薬学、有機化学においても例外ではない。


 さて、トリメチルアンモニウム塩基に付する1鎖基の違い、すなわちcholin, neurin, muscarin, betain, isomuscarin, etc.で大きく生理作用が異なるというGadamer氏の論文紹介である。よくみると語尾にeが付いておらず、今とスペルが違うのは良いとしても、ムスカリンの構造が違う(正式には下図)。ベタインも現在はこのトリメチルグリシンを含むトリメチル化アミノ酸の総称になっているが、当時はこの化合物だった。Neurinの名称も今は使わない。時代を感じる論文である。

 当時は神経伝達物質の概念などないから、後にACh受容体サブタイプの名前になるムスカリンも、ただの毒物としか認識されていない。ちゃんと構造活性相関を考えており、Medicinal Chemistryの始まりである。簡単、素朴な記述である分、ほんのわずかな側鎖の違いで作用が激変することに興味持ち、頭をひねっている当時の化学者が想像できる。

紹介者の慶松とは1901年東京帝大薬学科卒、08年満鉄中試初代所長、22年帝大教授、日本薬剤師会会長も勤めた若き日の慶松勝左衛門である。

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