2017年1月16日月曜日

第10 紫キャベツとpH指示薬

標示薬として赤「キャベージ」の応用
―――Union Pharmaceutique, April 1906の文献紹介(石津)
薬学雑誌293号768頁(1906)より

110年前の薬学雑誌に新pH指示薬に関する外国文献紹介があった。
pHという語も、水素イオンという語もなく、ただ「標示薬」である。
昔はキャベツと言わず、英語に近いキャベージだったようだ。
(ふつうの人は、たまな、葉牡丹、かんらん)。

「普通市場に散在せる赤キャベージを細切りし、適度の水を加へて1時間煮沸し1日放置したる後、越幾斯(エキス)に作り乾涸し、酒精に溶解したるものにして、酸に対しては赤色を呈し、亜爾加里の存在には緑色を呈す・・・」

欧米の学術雑誌に紹介された研究は、いま研究室で顧みられることはないが、小中学校の理科で使うかもしれない。昨年の上尾、伊奈、桶川の子ども大学では、小学生を大学に呼んで、様々なpH 溶液を作らせ、そこにキャベツの抽出液を入れて色の変化を観察させた。夕食の紫キャベツに酸っぱいドレッシングをかけ、色の変化に気付いた人もいるだろう。

紫キャベツの色素成分は、植物の花や果皮などに広く存在するフラボノイド系シアニジンアシルグリコシドであろう。アグリコンcyanidinは、1915年クロロフィルやカロチンなど植物色素の研究でノーベル化学賞を受けたWillstatterによって構造決定された。まだ真島利行(1907~)、朝比奈泰彦(1909~)両先生がこの研究室へ留学する前でもあるせいか、見事なほど、本記事には成分の化学的な説明が一切ない。ただ、標示薬として熱に分解しないとか、燈火の下に於いても作業を誤認すること無し、とか、あくまでも実用的記事として書いてある。

本当にいろんな試薬が手作りの時代だった。
今は実験によっては、市販試薬どころかキットまである。パソコン普及で全てがスピードアップし、成果主義?では半年、1年ごとの成果を求められる。これでは、じっくりした研究は敬遠され、誰でも手軽に、簡単にできる(結果の予測できる)小さな研究が選ばれる。たぶん、キャベツの千切りをしていた昔の人のほうが実験の腕は良く、頭をゆっくり使って、思索も深かった気がする。
シアニジンアシルグリコシド(アントシアニンの一つ)の構造式(上)は、キリヤ化学のHPから拝借。
pH3.0で鮮明な紫赤色、pH5.5で薄い紫赤色、pH8.0で紫青色になる。

今は理科の実験として人気が高いらしく、アントシアニンという言葉は割と知られている。紅芋などからも簡単に抽出できる。

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