2017年7月17日月曜日

第27 冷蔵庫以前、卵の長期保存

薬学雑誌 1898年度 (明治31年) 168頁

翌年に薬学博士第1号となる田原良純が,文献紹介の記事を投稿している.
卵の長期保存について19種類の方法を試したという外国論文(Apotheker-Ztg.,1897)だった.
しかし,卵はずっと昔からあったのに,なぜこの時代になって話題なのか。しかも7ヶ月。おそらく,これは補給が悪く長期となる軍事行動に卵を携行するためだろう.

医薬分業がなされず製薬企業もなかった時代,薬学雑誌の会員,人事消息の欄は,陸海軍薬剤官が多い.彼らは薬だけでなく,食料の品質管理もしたと思われる.これが,農芸化学でない薬学の雑誌で酒,乳,缶詰など食料の長期保存の記事が多い理由のひとつだろう.

「其の法,7月の初め一試験につき各々20個の鶏卵を用い,翌年2月の末に之を試験せしにその結果以下の如し・・(一部抜粋すると) 
(1)塩水に沈むる法:皆廃物となる.但し強く腐敗したるには非ざれども,塩が甚しく浸入したるため,食用に耐えず.
(2) 紙を以って包蔵せる法:80%変敗せり.
(6)巴拉賓(パラフィン)を以って塗布する法:70%変敗せり.
(10)撒里矢爾(サリチル)酸溶液中に沈むる法:50%変敗,
(15)木灰中に貯蔵:20%変敗,
(18)華攝林(ワセリン)を以って塗りたる後石灰水中に沈むる法:皆保存せり.
(19)水硝子溶液中に沈むる法:鶏卵皆極めて善く保存せり.・・・」
 
水硝子は珪酸ナトリウムNa2SiO3のこと.80%とか20%とかは個数ではないだろう.見た目か味か.
また記事にはもっとも肝心な試験温度などの記載はない.電気冷蔵庫の発明は1913年(米国).温度を調節する概念などなかった時代である.

 さらにまた薬誌同年10月号1035頁で「台湾にも又鶏卵,とくに家鴨卵の一種貯蓄法あり.其の法の大要は外殻面に厚く粘土を塗布し徐々に自然と乾燥せしむるに在り.・・・」未だ日本人はピータンを知らなかった.

 先の大戦のころには薬剤官の仕事はだいぶ高度になっている。潜水艦内CO2吸収法を研究したり(ファルマシア1979年度315頁)、同1974年度465頁には当事者たる先輩方の座談会があって、補給が途絶えたラバウルでジャングルに入りシマソケイの大木からマラリア薬を作ったり、決死の噴火口から硫黄を取ってきてバッテリー用の硫酸を作って長官賞をもらったという。

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