2018年1月20日土曜日

第45 明治時代、中毒の統計

明治19年の中毒、半年報
薬学雑誌1887年度202頁(5月号)

内務省衛生局発表,昨年7月より12月にいたる中毒患者の統計は下記の如し.

1.河豚23人(治7,死16).治というのは危篤になったが命をとりとめたという意味.
2.菌96人(治71,死25).当時キノコはこの字を使っている.真菌(かび)と山に生えるキノコに同じ字をあてるのは英語fungusと同じ.
3.樒(治2,死3)はシキミと読む。
我々が習ったシキミ酸経路のシキミはこの成分。毒性物質はアニサチンなど。類縁トウシキミが香辛料になるので誤ったか。この実は植物としては唯一劇物に指定されている.
4.蘇鉄(治5,死1)は,種子にでんぷんを多く含むため飢饉の時など食用にすることがあったが,サイカシンからホルムアルデヒドが生ずるらしい.別に神経毒の存在も言われる.
5.蔓陀羅華(治5)はチョウセンアサガオ。
アトロピンなどムスカリン受容体拮抗物質を含む。華岡青洲の通仙散にも入っていた.
6.銀杏(死1)はメチルピリドキシンがVB6に拮抗し大量摂取すると痙攣を起こす.
幼児なら体調次第で数粒から危ないという.ギンナンは食品栄養標準成分表が2000年に改訂されるまでVB6の豊富な食品として載っていたが,誤ってメチルピリドキシンを測っていたらしい.
7.木本黄精葉鈎吻(死1)はドクウツギのこと.
赤い実は甘いので子供がよく誤って食べた.

また俗称ヲバシラゴなる海草(治1,死1)に加えて,
海老(治2),蟹(死6),雑魚(死1).同誌9月号にも川エビ(シラサ)を食べた11人に中毒,1人死亡とあるが,普段よく食べるエビやカニに毒性物質があったとは思えない。
おそらく細菌性食中毒であろう。

続く炭酸(死5),酸化銅(治5),昇汞(死2),阿片(死2) ,石炭酸(治3) ,青酸(死1),駆鼠散(治3)は良いとして,蔓兒比涅(治1,死5),亜爾固保兒(死3),斯篤利幾尼涅(死1),重格魯謨酸加里(死1)も読めれば分かる.

しかし今わからないものもある。
白砒石(死1)は外用薬,
莫青(治4,死1),
榮實(死1)は説明なく、ということは当時常識だったようだが私には分からない.

以上、半年の合計189人(治109,死80).

当時明治19年の薬誌は毎月中毒の記事あり.
4月号の雑報欄には,
 朱と緑青で着色した餅を食べて治5,
 疥癬の妙薬といわれた山萬年青で治1,
 樒で死1.
6月号は
 きのこ治3,
 梅の種で死1,
 「蛇のダイバチ」と呼ばれる根塊を山芋と間違えて治1
....

貧しく自給自足であった時代,色んな物を食べた。
報じられたものは極一部であろう。
保健所も病院もなく、大部分は村の噂で終わったであろう。

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