2018年3月17日土曜日

第67 炊飯釜のふたの改良

小学生頃まで、信州の農家だった我が家はプロパンガスもあったが、飯はかまどで炊いていた。
羽のついた釜に、木のふたが載り、よく吹きこぼれていた。



「従来本邦において日常慣用する木製釜蓋にありては,飯を炊くにあたり著しく糜粥状の粘液を釜外に沸溢し,飯の栄養成分を損出することは衛生学進歩の今日において世人の常に遺憾とするところなり」

薬学雑誌 1907年度(明治40年) p484-488

5ページの大論文は,こう始まる。
要するに,炊飯釜の吹きこぼれがもったいないから何とかしようとした研究である。
著者,森川釖三郎は五高薬学科(長崎)の教授.

「余は,その予防の方法を攻究せんと明治36年より39年に至る4年間,日々これが研究に従事し,ついに」炊飯釜の蓋を作った.

冷水を入れた洗面器のようなものを木製蓋のかわりに釜にかぶせるだけで,中の水蒸気が蓋で冷やされ,圧力が減る.すると蓋と釜のあいだから粘液が漏れなくなるという.その結果,少しも飯の栄養成分を損失せず,飯の容積と甘味を増し,釜の掃除も大いに楽になるらしい.

使用法は,上部に張った水に「時々指を挿入して温度を注意し,殆ど指を挿入し能はざる温度に達するときは直ちに薪炭をまったく引き取るべし.なお下部にある排出管を開き蒸気を嗅ぎ,焦臭あるを注意せば一層安全なりとす」.
そのあと水の量,炊き方などが続く.

記事がこれで終わったらただの町の発明家だが,薬学者は分析する.
通常の木蓋と改良蓋では100グラム当たり水分(72.48対72.48),でんぷん(24.77対24.17)はあまり変わらない.しかしタンパク質は1.97から2.38に増えた.

「今日本人口を6千万とし,其の3千万人は1日白米5合を要するものと仮定せば,蛋白質の量は1日に2億4千グラム,1ヵ年に876億グラムを現在より増得するに至らん」.
全国民がこの蓋にすれば「国家的少なからざる稗益を与ふるもの」という.

なお,上部の温かくなった水は,「飲料或いは器物,顔面の洗滌」に使うという。
これは賢い。

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